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本塁生還という記録について(前編)-歴代のタイトル獲得者を振り返る-

 プレミア12、見事優勝しましたね!山田選手の逆転3ランには痺れました・・・この大会の意義については賛否両論あると思いますが、この時期なのに皆が一生懸命にプレーしていて、改めて国際試合の熱さ、面白さを感じさせられました。出場した選手は、短いですがオフはゆっくり休んで、来シーズンも無事活躍してほしいですね。さて、今回からは本塁生還という記録について迫ります。歴代の名リードオフマンの名前が続々登場するので、お暇な方はご一読を。

 

1. 本塁生還という指標について

  本塁生還というと、「それは得点と同じなのでは?」と思われる方も多いと思いますが、このブログでは自分の本塁打以外で本塁へ生還した回数を本塁生還として定義します。つまり、以下の式で表されます。

本塁生還(Home-in / HI)=得点-本塁打

 この指標は単に生還とも言われますが、式からも分かるようにリードオフマンタイプの打者を評価するための指標です。得点が多く、得点に対する本塁打の割合が少ない打者が高く評価されやすい指標になります。

 また、出塁数に対する本塁生還数の割合である本塁生還率は以下のようになります。

本塁生還率(Home-in percentage / HIP)=本塁生還/出塁≒(得点-本塁打)/(安打+四死球+代走起用数*-本塁打)

*代走起用数は分かる場合のみ

 この式にニアリーイコール(≒)を入れているのは、出塁の内容にエラーや野選、併殺崩れによる出塁が含まれていないためです(そういう意味では、この本塁生還率自体は正確性に欠ける指標と言えます)。

 今回はこの本塁生還という記録について、各シーズンの「本塁生還王(以下単に生還王とも)」を振り返ることでその実情に迫りたいと思います。その前に、本塁生還王を評価するにあたって、挙がるであろういくつかの疑問点を解消しておきます。まずは「得点王でいいのでは?」「本塁打を引く意味が分からない」という疑問です。確かにリードオフマンを評価するならば最も本塁を踏んだ回数をそのまま評価した方が良さそうですが、歴代の得点王を見てみると事情は変わってきます・・・実際の顔ぶれを見た方が早いですね。2001年以降の各シーズンの得点王は以下のようになっています(黒字は右打、青字は左打、赤字は両打)。

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 どうでしょうか。一番打者タイプの打者も多く居ますが、どちらかというとある程度長打力のある、中距離打者以上の打者の方が多いことが分かります。昔俊足巧打タイプの選手が「得点王を獲りたい」と言っている記事を見かけたことがありますが、そのような選手にとってはかなり獲得の困難な(公式ではないが)タイトルと言っていいでしょう

 もう一つの疑問が「その選手の後ろの打者が評価されるべきでは?」という疑問です。これは最もな意見で、野球は得点を争うスポーツなので実際に得点を「決めた」打者の手柄だと言う主張は分かります。ですが、出塁能力を評価され、それだけ得点を決められる打者の前の打順に置かれ生還したということも十分評価に値すると私は思います。それにポイントゲッターの打者には打点王というタイトルが既にありますが、それと対をなすリードオフマンタイプの打者が目指せるタイトルは現状ありません。自分で出塁して、進塁して生還するという、軽視されがちなリードオフマンの仕事も評価したいと私は思うのです。

 

2. 歴代のタイトル獲得者を振り返る

 この項では、赤星式盗塁についても触れているので、知らない方は下記記事も読んでみてください。

baseball-datajumble.hatenablog.com

 さて、前置きが長くなってしまいましたが、本塁生還という指標について分かったところで歴代の本塁生還王を振り返ります。ここでは本塁生還数を年代ごとに比べるため、aHI(adjusted Home-in ; 補正本塁生還)を点の入り方が平均的な年に本塁生還した回数を示す指標として、その生還率とともに列記しています(要するに、打高の年はaHIはHIより低くなり、打低の年は高くなります)。T試合は所属チームの試合数;HIの欄の緑字は当時の最高記録、茶色字はリーグ記録、赤字は現在のリーグ最高記録;太字の球団は日本一、太字の選手はMVP、太字の記録はリーグ最高記録です。また、ここでの本塁生還率(HIP)には代走起用数を入れていませんそれではどうぞ!

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この時代は最多得点獲得者がそのまま最多生還を取っているケースが多いことから、全体的に本塁打が少なく、極度な投高打低だったことが分かる
最高本塁打数が4本だった1943年の呉昌征は最多生還に加え当時歴代一位の44赤星式盗塁、二年連続の首位打者を獲得 見事MVPに輝いた
この年の呉昌征は130を超えるaHIを記録しており、相当傑出したリードオフマンであったことが想像できる
戦後ボールの質が上がるにつれ得点数も上昇し、1949年には黎明期巨人のリードオフマン・千葉茂が当時のプロ野球記録である106生還を記録している

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1950年の超打高シーズンでは新規参入した大洋ホエールズの二番打者・宮崎剛が初年度にして100生還を記録 以降なかなか破られないリーグ記録となる
ハワイ出身の戦後初の外国人選手、与那嶺要は最多生還を三度、首位打者を三度獲得した1950年代巨人の不動の一番打者
激しいプレーで日本野球の走塁意識を変えた選手として知られる 通算打率.311は歴代7位の記録

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この時期は鶴岡一人監督が率いる南海ホークスの全盛期で、1950年代初頭には木塚忠助蔭山和夫飯田徳治の強打の内野陣が代わる代わる生還王を獲得
1958年には木塚に代わる遊撃手として広瀬叔功が台頭し、以後長くリードオフマンとして活躍する
1955年に長らくパ・リーグ記録だった100生還を記録したロベルト・バルボンはキューバ革命が起こる前に来日した初のキューバ出身外国人選手
慣れない日本の環境下で、初年度から2年連続で生還王、3年連続で盗塁王を獲得した

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aHIが通常の生還数より高い打低時代
中利夫は首位打者も獲得したことのある中日の一番打者 本名の利夫から三夫、暁生、登志雄となぜか登録名を変えまくっている
1965年からは巨人のV9が開始 王長嶋の前を打つことが多かった柴田勲の時代となる
柴田が絶不調だった1969年には王貞治が自ら最多生還を獲得 長嶋の前でも敬遠され続けた王の出塁力、生還力もこれだけ黄金期が続いた要因の一つだろう

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広瀬叔功の時代は続き、1961年の中堅手への転向以後は盗塁数も増加 5年連続盗塁王に輝いている
1964年は広瀬のキャリアハイであり、2位の張本(.328)に大きく差をつける.366での首位打者、54赤星式盗塁、98生還に加え、最高OPSと各指標で圧倒している
数々の最年少記録を持つ元祖「安打製造機」、榎本喜八も3回の生還王を獲得 ロッテが球団を持つまでのオリオンズの主軸打者として長きにわたって活躍した

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V9時代後半にも高田繁、柴田勲の巨人のリードオフマンがタイトルを独占
出塁率が並だった柴田がここまで生還できたのは、王長嶋の本塁打が球史上でも抜きん出て多かったからだろうが、それを後押ししたであろう柴田の盗塁力、進塁力の高さも無視できない
打低時代に3割を何度もマークしたヤクルトの主軸打者、若松勉は1978年に最多生還を獲得し初の日本一に貢献 MVPに輝いた

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ここからのパ・リーグは福本豊の独壇場
レギュラーに定着した1970年に生還王を初めて獲得すると、盗塁のシーズン記録を樹立しMVPに輝いた1972年から11年連続生還王を獲得
盗塁力だけでなく、通算.379の出塁力そして生還力も備わった福本こそ真のリードオフマンであると言える

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実に4人が最多生還を経験した両打ちリードオフマンの全盛期
中でも髙橋慶彦は計5回のタイトル獲得中、4回優勝、3回日本一に輝いており、まさに赤ヘル黄金期の若頭と言える
1985年には、スーパーカートリオ結成時の高木豊がセ・リーグでは33年ぶりの90生還を記録
盗塁成功率は悪い高木だが、当時の広いハマスタでその出塁力と生還力の高さは頼もしかったに違いない

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福本は1983年に大石大二郎に連続生還王記録を11年で止められるも、38歳となる1985年まで生還王を獲得
1970年から1986年まで17年連続で規定到達し70得点以上を記録しており、その存在が阪急の黄金期の原動力だったことは間違いない
一方の大石は右打者として5回の生還王を獲得するなど、いてまえ打線の長打力も備えたトップバッターとして活躍した

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打低時代から打高時代へ移り変わる時期 生還王と得点王を兼ねている選手が多く、球場の広大化に伴い得点が入りにくい時期であったことが分かる
髙橋慶彦に代わり遊撃手に定着した野村謙二郎が3度のタイトルを獲得 特に1995年は一番打者としてトリプルスリーを達成した
石井琢朗は1996年に三塁手から遊撃手に転向すると盗塁数の増加とともに生還力が急上昇 マシンガン打線の一番打者として5年連続80生還を達成している

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イチローは3年連続MVPを獲得した日本時代だけでなく、MLBでも2001年と2003年にア・リーグ生還王を獲得している
MLBでは8年連続90生還以上を記録しており、彼にとって重要視していた記録の一つであったことが分かる
イチローの後を追いかけた松井稼頭央も負けじと4回の生還王を獲得 常勝西武のトップバッターとしてチームを何度も優勝に導いた

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80生還以上のタイトルホルダーが多くなり、打高時代を迎える
2005年には赤星憲広がプロ野球記録をを56年ぶりに塗り替える118生還を達成 ラビットボール時代だがaHIも100を超えており、如何に赤星の生還力が抜きん出ていたかが分かる
現在通算打率ダントツ一位の青木宣親ももちろん球史に残るリードオフマンの一人
2005年に200本安打を打ってから今まで全ての年で60生還、70得点以上をマークしており、安定感の高さも素晴らしい

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2000年の小笠原道大は強打の二番打者として初の3割30本100打点に加え90生還を達成 見事生還王に輝いた
他には柴原洋川﨑宗則ら後期ダイエーのリードオフマン、森本稀哲田中賢介の北海道日本ハムのリードオフマンが並ぶ
生還王のいる球団が高い割合で優勝ないしは日本一に輝いており、新庄の言ったようにパ・リーグ時代の到来を感じさせられる

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大島洋平は得点が多く本塁打が少ない打者の代表であり、まさにこの指標の申し子と言える選手 4回の規定3割で3回生還王を獲っている 
2017年の田中広輔は盗塁王、最高出塁率と合わせると"3冠"を獲得 遊撃手でのフルイニング出場も考えると、この年のMVPは田中でも良かったかもしれない
トリプルスリーがノルマになってしまった山田哲人は生還力も高く、これまでに4回の得点王、2回の生還王を獲得
あと1回で広瀬叔功、大石大二郎しか達成していない右打者での生還王3回となるが、どこまで記録を伸ばせるか

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2010年の西岡剛がパ・リーグ記録を55年ぶりに塗り替える110生還を記録 これはスイッチヒッターのシーズン記録としても1989年松永浩美を大幅に超える大記録である
秋山翔吾は覚醒前の2013年にも生還王を獲っており、今シーズン早くも4回目の生還王を獲得 メジャーではイチロー、青木の200安打の先輩に続けるか
源田壮亮西川遥輝らの対決となる来季以降の生還王争いにも注目したい

 

3. タイトル獲得回数とシーズン記録

 前項の内容から、本塁生還王のタイトル獲得回数は以下のようになります。

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 福本氏が11年連続も含め、14回もタイトルを獲得しています。これは盗塁王の獲得回数よりも多く、福本氏がベテランになってもリードオフマンとしての仕事ができていたことを表しています。今度はシーズン記録トップ10を見てみましょう。

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 長らく100生還超えが大きな壁だったことを考えると、それぞれリーグ記録を持つ赤星氏、西岡選手の数字が抜きん出ていますね。この二シーズンは打高だったわけですが、両者ともに生還数の2位と20以上も差をつけていることから、当時のこの二人の生還力自体が他の選手より傑出していたことが分かります。今後この数字を更新する選手は出てくるのでしょうか。

 

4. 終わりに

 今回はこれで一旦終了になります。次回は本塁生還という記録について、2019年シーズンの成績と通算記録を見ることで分析したいと思います。今回はあまり触れなかった本塁生還率(HIP)という指標についても見ていきたいと思います。ところで、今回は試験的に表を使ってみましたが、どうでしたか?・・・それではまた次回。

 

5. 参考サイト

日本プロ野球記録

スタメンアーカイブ 日本プロ野球私的統計研究会

スタメンデータベース