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MLBのFA制度と投手評価のための指標 -KDとWARの年俸総額との関係-

0. はじめに

 筒香選手はレイズに決まりましたね!早くも予想成績が出ているみたいですが(⇒Notes on Yoshi Tsutsugo, Kwang-Hyun Kim, and the Week’s Other NPB/KBO Signees)、期待に応えられるようにまずは怪我せずにシーズンを迎えてほしいです。あとは山口俊選手がブルージェイズに決まりました。トロントは住みやすいイメージなので、こちらも是非活躍して、日本の投手の底力を見せてほしいですね。今回はそんなMLBの投手に関するFA制度や年俸体系についての記事になります。お暇な方は、どうぞご一読を。

 

1. NPBのFA制度とその現状

 ロッテと楽天、互いの所属球団同士でFA移籍した鈴木大地選手と美馬選手の人的補償や両球団間のトレードが話題になっていますね。私も涌井選手のトレードには驚きました。CSを争った二球団の来季の順位が早くも気になります。それはさておき今シーズンはその鈴木選手と美馬選手、そして福田秀平選手(ソフトバンクからロッテへ移籍)の3人が国内FA権を行使して移籍し、楽天の則本選手、西武の十亀選手の2人が"宣言残留"したわけですが、彼らの置かれていた状況は異なります。せっかくなので、MLBについて見ていく前に、彼らと海外FA権を行使している秋山翔吾選手を例にNPBのFA制度について簡単におさらいしましょう(知っている方は、長いので飛ばしていただいて構いません)。

 現在のNPBのFA権は、一軍の出場選手登録145日を1年として換算した累計出場登録日数が以下の規定日数を超えることで取得できます

◯国内FA権
2006年までのドラフトで入団した全選手:累計1160日(8年)
2007年以降のドラフトで入団した高卒選手:累計1160日(8年)
2007年以降のドラフトで入団した大卒・社会人卒選手:累計1015日(7年)

◯海外FA権
全選手:累計1305日(9年)

◯FA宣言後の国内FA権・海外FA権
全選手:FA宣言後累計580日(4年)

 この累計登録日数の換算が少しややこしく、一シーズンは約6ヶ月強(最低で183日くらい)ですが、一シーズン内に145日以上一軍登録されてもそれ以上カウントされません(つまり、一シーズンあたりの上限が145日)。そのためフル出場を続けているからといって権利の取得が早まるわけではなく、2014年からフルイニング出場を続けている秋山選手でも海外FA権の取得まで規定の9年を要しています。

 FA権を取得すれば、そのオフに権利を行使するかしないかという選択を迫られます。今年移籍した3人のように現時点の他球団の評価を知りたい(≒移籍する選択肢を持つ)選手は権利を行使し、他球団と交渉の場を持つことになります。一方で、権利を行使しない選手はFA権の権利を持ったまま残留という形になります。また、"宣言残留"した2人のように現所属球団から一定の評価を貰えた場合には国内FA権を行使した上で残留する選手もいます。

 FA選手にはそのシーズンの所属球団における日本人選手の年俸順位によるランクがあります。年俸順位が上位3位に入る選手はAランク、4位から10位の選手はBランク、11位以下の選手はCランクとなっており、選手が移籍した場合にはこのランクによって元の球団への補償内容が異なってきます。

 ある球団が国内FA権を行使した他球団の選手を獲得した場合、その選手がAランクまたはBランクの選手であった場合には、"金銭補償"あるいは"人的補償"が必要になります。"金銭補償"はその名の通り金銭による補償で、移籍した選手のそのシーズンの年俸によって支払われます。また"人的補償"はFA選手を獲得した球団の支配下選手による補償であり、球団がプロテクトした28名と外国人選手を除く選手の中から、移籍元の球団に指名された選手を譲渡しなければなりません。このため、おそらくBランクであった鈴木選手と美馬選手の移籍には補償が発生する形となり、先日報道にあったようにそれぞれ小野郁選手と酒居知史選手が"人的補償"として移籍しています。一方でCランクの選手には補償が必要なく、そのためか打撃が開花しつつもあった福田選手は引く手あまたという状態になっていました。

 場合によっては有望な若手や人気のあるベテランが持っていかれる"人的補償"を嫌う球団は少なくないため、現行のNPBのFA制度は実績のある高年俸の選手ほど移籍の選択肢・自由度が少ないというやや奇妙な状況にあります。最近の原監督らによる"人的補償"の見直しを訴える意見はそういった停滞したFA戦線に警鐘を鳴らすものでもあります。

 

2. MLBにおける"FA"とは

 では、MLBにおけるFA制度とはどのようなものでしょうか。MLBの選手がFA権を初めて取得するまでの過程はNPBと似ており、選手ごとにカウントされている172日を1年とするMLB在籍期間(以下MLS:Major League Service time)が規定値を超えることで取得できます。違うのはその規定値の短さで、MLBではMLSが6年に達するとFA権を取得できます。また、NPBでは権利を行使するかしないかという選択肢がありましたが、MLBでFA権を得た選手はそのオフに例外なく自動的に権利を行使した状態="FA"(Free Agent:フリーエージェントとなり、現所属球団を含むMLBの全球団との交渉機会を持つことになりますMLBでは"FA"選手の去就やリーグ運営について話し合われるウインターミーティングなるイベントが毎年12月上旬(今年は9~12日)にあり、目玉選手の契約は大体この時期に決まります。

 ここで、この"FA"=フリーエージェントの意味するところがNPBとは異なっていることを知っておかなければなりません。NPBでは取得したFA権を行使した選手のみをフリーエージェントとして扱い、契約を打ち切られた自由契約の選手とは区別されていますが、MLBでは契約を満了した全ての選手のことを"FA"と呼ぶ(NPBにおける戦力外にあたる選手や退団選手も含む)ため、毎年オフには"FA"選手が大量に出てきます。私はMLBについては詳しくなく、なぜあんなに移籍が多いのか不思議に思っていましたが、MLBで移籍が多い理由としてはFA取得期間の短さ、自由契約のなりやすさが挙げられそうです。

 次項からは現役MLB選手の小松式ドネーション(以下KD)ランキングを年俸総額(これまでの年俸の合計額)や今オフの契約とともに見ていくことで、現役選手についてかいつまんで紹介します。KDの見方については以下の記事に書きましたので、見てない方は読んでみてください。

baseball-datajumble.hatenablog.com

 

3. MLB現役選手のKDランキングと年俸総額

 この項では、選手のチームへの貢献度を表す指標であるKDのランキングともとに、MLBの"現役選手"を紹介します。ここで言う"現役選手"とは、現球団との契約を結んでいる選手および自由契約選手のうち、FanGraphsの来季の成績予想で一定の成績(先発では投球回100イニング以上、リリーフでは30登板以上)が予想されている選手を指しています。そのため、来季も現役なのにランキングに登場しない選手もいるかもしれませんが、その点はご了承ください。そして先日のウインターミーティングで決まった大型契約についても触れていきます。表が突然英語になって見づらいかもしれませんが、頑張って該当選手を探してみてください。それでは、どうぞ!

*略語の説明:from欄は選手の出身国(USA⇒アメリカ合衆国、DOM⇒ドミニカ共和国、VEN⇒ベネズエラ、MEX⇒メキシコ、NED⇒オランダ、COL⇒コロンビア、CUB⇒キューバ、JPN⇒日本)、Genは日本で言う世代、KD/yは年ごとのKD、Gは登板数、IPは投球回数、Wは勝利数、HLDはホールド、SVはセーブ、ERAは防御率、Joinはルーキー年度、Total Cashは年俸総額

**WAR(Wins Above Replacement)・・・そのポジションの代替選手に比べてどれだけ勝利を積み上げたかというセイバーメトリクスの指標(FanGraphsの数値を記載)

***名前が黒字の投手は右投、青字の投手は左投の投手;斜体の選手は現時点で自由契約の選手

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36歳となった今季、今年二度目のサイ・ヤング賞を受賞したバーランダーが11196KDで一位
WARもダントツのトップであり、納得の順位となった
上位陣は投球回数順になっているが、その中で8位のロドニーのKDの高さが目立つ
現役最年長のロドニーは救援一本で11球団を渡り歩いたドミニカの最後の砦 WARや年俸は高くないが、100H300Sという数字が貢献度の高さを示している
打撃が良いことでも話題になるバムガーナーは投手として評価が高く、12月17日にダイヤモンドバックスと5年8500万ドル(約93億5000万円)の高額契約を結んだ

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キンブレルジャンセンチャップマンの現MLBを代表する抑え投手が登場
物凄いセーブ数に比べ、ホールド数の異常な低さが目立つが、セーブ機会以外は登板させないなどの要項が契約の中にあるのだろうか
WARでは下位となるジョー・スミスクリッパードソリアロモの700登板を超える中継ぎ陣はKDではかなりの評価になる
ドラフト史上最高の選手と呼ばれ、2009年のドラフト全体1位で指名されたストラスバーグは今シーズンおよびポストシーズンの大活躍でナショナルズ初の世界一に大きく貢献
オフの12月9日にはナショナルズと新たに7年総額2億4500万ドル(約269億5000万円)の投手史上最高額で再契約を結んだ

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48位のコールは今年ア・リーグ最優秀防御率最多奪三振を獲得した今年のFA市場最大の目玉
12月10日にヤンキースと9年総額3億2400万ドル(約356億4000万円)で契約合意に至り、平均年俸は前日のストラスバーグを超えて投手史上最高かつMLB史上最高額となった
59位のデグロムは二年連続でナ・リーグサイ・ヤング賞を受賞している凄い投手
この2年間の勝利数は10勝、11勝と平凡だが防御率傑出度、WARで他を圧倒しており、セイバーメトリクスによる評価がMLBで確固たるものになりつつあることが分かる

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ダルビッシュ田中将大は60位台と低い数字ながら、WARでは高い数字を記録 高額年俸に見合った活躍はできていると見ていい
しかし、野茂(7159KD)や黒田(4747KD)のKDや安定感には遠く及ばないので、200勝を達成するついでにKDももっと伸ばしてほしい

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やはりKDが低いほど年俸総額は低くなっており、ある程度の相関はありそうである(次項参照)
1990年代の選手が少ないのは、MLBのマイナー組織の多さも関係していそう
100位のストローマンは2017年WBCの大会MVPを獲得した米代表のエース
WHIPが悪く、被打率の高さが課題であるが、まだ若いのでこれからの飛躍に期待したい

 

4. KDとWARの年俸総額との関係に見る選手評価の難しさ

 WARと年俸総額とともにKDとのランキングを見てきましたが、KDはやはり他の指標では過小評価されやすい中継ぎ投手がある程度評価される指標ということが利点のようです。防御率やWHIPなどの指標が多少悪くても、投げて救援勝利とホールドを積み重ねていけば伸びるので、KDをインセンティブなどに加えればモチベーションアップにも繋がりそうです。それは冗談として、昔は知りませんが現在のMLBは分業制が完全に確立されており、先発投手から抑え投手への配置転換やその逆などはまずありえないということも分かりました。この辺はマイナーリーグでの成績を見て、契約の時点で決まってくるのでしょうか。毎年救援への配置転換を繰り返される前田健太選手の例もあり、事前の契約が起用法まで決めてしまっているのには少し違和感を覚えます。MLBに対する不満も出てしまいましたが、最後は先程のランキングのKDとWARの年俸総額との相関について散布図で見ていきます。まずはKDと年俸総額の散布図になります。ここで縦軸は、1米ドル=110円として日本円に換算しています。

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 見にくいですが、KDトップ30位までは名前も表示しています。また、線形近似による近似直線を2つ示していますが、緑の方が原点を通るもの、赤の方は原点を通らないものになっています。近似直線の上に示したRの2乗値は決定係数と言う統計学の指標で、0から1までの値を取ります。統計学の頭の痛い授業のようになるので詳細な説明や数式は割愛しますが、この決定係数は簡単に言うとそのモデル(ここでは近似直線)がどれだけデータに当てはまっているかを示しており、1に近づくほど相関が高いことになります。これを踏まえてグラフを見ると、緑の近似直線は無理矢理原点を通らせたため決定係数が低くなっているのに対し、赤の近似直線では0.7394となかなかの値が出ています。原点を通らないので変に思うかもしれませんが、若い選手は年俸の上昇幅が大きく、年を重ねるほど固定給になっていく年俸制度を考えると、そのシステムを表したグラフになっていると思います。

 次はWARと年俸総額の散布図を見てみます。

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 こちらは近似直線が原点の近くを通りますが、決定係数は0.6569とKDの近似直線よりは低い値となっています。特にWARが低い選手についてはKDの散布図よりもデータのバラつき具合が目立っており、WARの低い選手を評価する難しさが示されています。投手でWARが低い選手は主にリリーフ投手が占めており、年間70試合以上を投げ抜くリリーフ投手の評価という面ではKDの方が優れていることがこの図からも読み取れます。

 選手を見ると、レッドソックスのセール選手やサイ・ヤング賞を2回獲っている現レンジャーズのクルーバー選手などの過小評価が目立ちますね。FA権を有する選手の年俸高騰が相次ぐ中で彼らの年俸が低い理由がいまいち分からなかったのですが、これについては今後MLBについて詳しくなっていく中で(詳しくなるか分かりませんが・・・)突き詰めたいと思います。なお、今シーズンのMLB年俸トップ2であるナショナルズの2大エース・シャーザー選手とストラスバーグ選手の年俸総額が低くなっており、不思議に思われる方もいると思いますが、これは年俸が契約金を反映した数字になっていないからです。契約金を反映した数字にするとシャーザー選手は約170億、ストラスバーグ選手は約120億となり適正値になります。この二人以外は実際の年俸との差はあまり無いと思いますが、間違いがあるかもしれないことはあらかじめご了承をお願いします。

 さて、最後の最後に付録としてKDと年俸総額の散布図のNPB版を載せておきます。

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 原点を通らない赤い近似直線の決定係数は0.6441となっており、MLBのものよりは低い数字になっています。選手を見ると、藤川選手、宮西選手、増井選手は近似直線より上の位置におり、中継ぎ投手でありながら一定の評価をなされていることが分かります。ここはロドニー選手やクリッパード選手が近似直線を大きく外れていたMLBとは大きく異なるところです。一方で、MLBと同じく防御率の悪いイニングイーターは年俸総額が低くなってしまう傾向があります。日本はKDの開発者がいる国なので、石川雅規選手や涌井選手などのイニングイーターがもっと評価されるような年俸体系を構築してほしいですね。また縦軸を見ると、MLBとの年俸総額の差が顕著に現れています。これを見るとMLBを目指す選手が多いのも分かりますが、NPBも負けないように魅力を上げていかなければなりません。そのためにはルール改正や戦術面などMLBに追従するだけでなく、日本独自のものを発信していくことも大事だと思います。昨今のMLBでは時間短縮が叫ばれており、今年もワンポイントリリーフの禁止などのルール改正が決まりました。その一方で、ファンの熱気では勝る日本の野球はそれでいいのか、高校野球の球数制限なども含めて今後の日本野球の判断に注目です。

 

5. 終わりに

 以上、本ブログで初となるMLBについての記事でした。MLBを見始める導入段階として、実績のある投手や高年俸の投手について知ることができたなら幸いです。私もまだMLBに贔屓の球団は無く、どの球団がどちらのリーグに所属しているかすらも怪しい状態なのですが、これを機にMLBに対する興味が続いたら嬉しいです。一方で、NPBもより良くなるためにDH制や前述の人的補償制度などの基本的な部分の見直しが必要になってくる時期にさしかかっているのかもしれません。このような制度の改正によって野球は変わってしまうので、より魅力的なものにするためにどういう方向性が良いのか、よく吟味してほしいですね。今年の更新はおそらくこれが最後になると思います。次回は2019年シーズンの打線についての記事になると思いますが、気が変わるかもしれません。ではまた来年、良いお年を。

 

6. 参考サイト

プロ野球FAカウンター | FA権取得まであと何日?

FanGraphs Baseball | Baseball Statistics and Analysis

Baseball-Reference.com

Spotrac.com

年俸推移・生涯収入の年俸.jp